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2005年7月 8日 (金)

キャンディと著作権

キャンディとともに著作権を考える        弁護士 岡本 哲

1 「キャンディ・キャンディ」

1 「1、2の三四郎」にもでてくるキャンディ

2 最近は単行本がでない

2 「キャンディ・キャンディ事件」

 1 判例紹介

 2 筆者の疑問

   ―――「1、2の三四郎」のはなしから、「キャンディ」のはなしになりました――

1-1 「1、2の三四郎」にもでてくるキャンディ

小林まこと「1、2の三四郎」(講談社)をよみかえしていると、高校の学園祭のシーズンの応援幕とか、ヒロインがみる夢のなかに「キャンディ・キャンディ」の主人公キャンディがよく登場してくる。もともとは週刊少年マガジンに連載されたマンガであり、小学校高学年から高校生くらいが本来の読者層であるが、なかよし連載の「キャンディ・キャンディ」についても十分基礎知識があると判断され、パロディの対象となったのであろう。

筆者の事務所は

岡山市

にある。となりの

倉敷市

にいがらしゆみこ記念館があるため、キャンディの認知性は高く、20代~30代の事務員すべてがキャンディを知っていた。

小谷野敦「軟弱者の言い分」2001年・晶文社のなかでも高校時代の氏がアニメをみるのを楽しみにしていたことが書かれている。

「わが青春のヒロイン

 高校二年生のころ、私は、三時に学校が終わるとすぐに帰途につき、帰りの電車に飛び切手いた。五時から再放送のアニメ『キャンディ・キャンディ』を観るためである。私は再放送で「キャンディ」を知ったのだが、全九巻の原作コミックスも、それから毎週二冊ずつ買って読みおえた。当時ビデオはなかったし、家から学校までは一時間半ほどかかったので、これを観るためには全速力で帰らなければならなかったのだ。一九七九年のことだ。」(197頁)

1-2 ところが最近はこのキャンディの単行本は発行されていない。同時期のライバル雑誌「りぼん」「花とゆめ」掲載作品であれば、テレビ化されていずとも、文庫本などで1年に1度くらいのペースで増刷されている。それと比較しても、増刷がないのはおかしい。

 「新潮45」2004年11月号でこのへんの事情についてはふれられている。

 基本的には著作権のトラブルで増刷ができなくなっている。どのようなトラブルだったのだろうか。

2 「キャンディ・キャンディ事件」

 「判例マスター」で「キャンディ・キャンディ」をキーワードで検索すると、刑事事件のほかに民事事件が3件でてくる。しかし、判例検索ソフトに、こんな固有名詞もはいっているのは、ちょっとした驚きであった。

 

2-1 判決紹介

 原作者である水木杏子が原告となり、漫画家であるいがらしゆみこが被告となってキャンディを描いたリトグラフ等の販売中止等を求めた事件である。原告水木杏子のほぼ全面勝訴判決になっている。その不仲は現在も尾をひいてコミックス(これは二次的著作物であることについては争いはないと思われる)についても水木杏子・いがらしゆみこのどちらもが同意しない限り出版等できないことになっていて、いまだに不仲が続いているせいで、現在も再版にいたっていない。

 一審の判旨は以下のようになっており、控訴審・最高裁でも支持された。

 長編漫画連載中の1コマ絵、掲載雑誌の表紙絵、掲載終了後19年後に制作されたリトグラフ等の原画のすべてにつき、原著作権者である物語作者の二次的著作権を認めた。

① 長編連載漫画が、原作原稿を原著作物とする二次的著作物に当たるとされた事例

② 長編連載漫画の主人公を描いたリトグラフ用原画の作成等が、右漫画の原作原稿の著作者が二次的著作物たる右漫画につき原著作者として有する複製権を侵害するとして、原作原稿の著作者による差止請求が認容された事例

③ 本件連載漫画は、連載の各回ごとに、原告の創作に係る小説形式の原作原稿という言語の著作物(右原作原稿が、思想又は感情を言語によって創作的に表現したものであって著作物性を有することは、連載の一部の回に係る原作原稿である甲第四〇号証、第四二号証、第四八号証、第五〇号証、乙第一〇号証、第一二号証、第一三号証、第一九号証及び第二〇号証から明らかである。)の存在を前提とし、これに依拠して、そこに表現された思想・感情の基本的部分を維持しつつ、表現の形式を言語から漫画に変えることによって、新たな著作物として成立したものといえるのであり、したがって、本件連載漫画は、原告の創作に係る原作原稿という著作物を翻案することによって創作された二次的著作物に当たると認められる。

④ 本件連載漫画における絵の部分は専ら被告Yが創作したのであるから、本件連載漫画を絵という表現形式においてのみ利用することは、被告Yの専権に属するというにある。しかしながら、前記認定のとおり、本件連載漫画は、原告の創作に係る原作という言語の著作物を、被告Yが漫画という別の表現形式に翻案することによって、新たな著作物として成立したものであり、右翻案に当たっては、漫画家である被告Yによる創作性が加えられ、特に絵については専ら被告Yの創作によって成立したことは当然のことというべきであるが、このようにして成立した本件連載漫画は、絵のみならず、ストーリー展開、人物の台詞や心理描写、コマの構成などの諸要素が不可分一体となった一つの著作物というべきなのであるから、本件連載漫画中の絵という表現の要素のみを取り上げて、それが専ら被告Yの創作によるからその部分のみの利用は被告Yの専権に属するということはできない。そして、前記のとおり、本件連載漫画が原告作成の原作との関係において、その二次的著作物であると認められる以上、原告は、絵という要素も含めた不可分一体の著作物である本件連載漫画に関し、原著作物の著作者として、本件連載漫画の著作者である被告Yと同様の権利を有することになるのであり、他方、本件原画のような本件連載漫画の登場人物を描いた絵は本件連載漫画における当該登場人物の絵の複製と認められるのであるから、これを作成、複製、又は配布する被告らの行為が、原告の有する複製権を侵害することになるのは当然である。

  控訴審では、以下の⑤⑥の主張が被告から付加された。

       本件コマ絵はストーリーを表しているコマ絵ではないから、物語の二次的著作権の対象にはならない。

⑥ 本件表紙絵または原画(の原画)は、真実は物語原稿受領前に作成して編集者に交付

されているので、二次的著作物の対象ではない。

⑤について控訴審判決は、二次的著作物は原著作物の創作性に依拠しそれを引き継ぐ要素(部分)と、二次的著作物の著作者の独自の創作性のみが発揮されている要素(部分)との双方を常に有するものであるが、著作権法28条はこれを区別していないから右第一の主張は理由がないとした。

⑥について 控訴審は、本件表紙絵・本件原画が本件連載漫画の主人公であるキャンディを描いたものである限り、その主張のような事情が存在するとしても、本件連載漫画の複製(あるいは翻案)としての性質を失うことはありえないから、この主張も理由がないとした。

 ⑤⑥の判断は最高裁でも維持された。

2-2 筆者の疑問

 2-2-1 実質的判断

 これは、原作からマンガにした事件だが、原作から実写の場合とくらべてバランスが失しているように思われる。

 小説のキャラクターと実写やアニメになったキャラクターとは別ものといっていい。

例えば、「ターザン」がバロウズの原作と映画では全く異なっている。エメリッヒのゴジラと東宝のゴジラは別ものであることに異論があるひとはあまりいまい。

「キャンディ・キャンディ」が舞台にかかり、ャンディ」るい。しれない。こんな女優がキャンディを演じた場合でも、女優自身の写真やブロマイドを販売するときの権利は通常はその女優にある。キャンディと別個のそのキャラクターは観念可能であろう。

コミックスそのものについては原作者の原作からの二次的著作物といっていいが、19年後制作のリトグラフについては二次的著作物の範囲としては疑問がある。絵をかうのは絵の魅力のためであり、その購買喚起力は原作の魅力だけではない。ブロマイドをかうのは女優の魅力である場合と比較しても明らかであろう。

⑤⑥の二審についてはとくに疑問かある。

 マンガ家の場合、手塚治虫先生などはスター・システムをとっており、同じ絵の人間が別々のマンガで別々の役割をするようになっていた。いがらしゆみこ先生のマンガをすべてみたわけではないが、キャンディについてもそばかす・髪形・服装以外についてはいがらし先生の典型的な主人公であり、他の悪役についても類型的な造形となっている。

 また、アニメの場合は造形部分のキャラクターデザインについて、とくにそれぞれの担当者がいる場合もおおく、原作者とはまた別の地位が与えられている。

 本件程度の事実関係でキャラクターについて二次的著作物としたのは疑問がある。

 このへんの事実関係について二審では被告側が十分主張立証をつくしていなかったのかもしれない。

 2-2-3 学説

⑤については滝井朋子先生・作花文雄先生が「二次的著作物の一部複製物は、当然に二次的著作物であって法28条の適用を受ける、とする本判決の理論部分及びこれを肯定する控訴審の判断には賛成できないとされる(村林古稀369頁)。特に二次的著作物といえども、その購買喚起力が絵の力にある場合にこの結論は疑問がある。

絵の力及びマンガ表現におけるコマ割の重要性、アニメ・マンガにおけるキャラクター造形の重要性について軽視されたところがおおいように筆者も感じている。

原作者の原稿料とのバランスの問題があるが、「創作性」を保護する著作権法の解釈としては独自のものについては独自に評価する姿勢があってしかるべきと思料される。

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