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2006年4月 4日 (火)

「はたらくじどうしゃ」事件

はらたくじどうしゃ」事件

                  弁護士 岡本 哲
 --43という数字から絵本の著作権の話になります--

1 43とミニカーと「はたらくじどうしゃ」
 小川洋子「博士の愛した数式」が映画化され1月に公開された。3月には毎日放送ラ
ジオでラジオドラマになっている。博士は脳の障害で80分しか記憶がもたず、毎日数
学の問題を解答してくらしている。博士は数字に意味づけをする。家政婦の靴のサイズ
をきいて、24と答えると、24について「すばらしい、4の階乗じゃないか」という
具合である。
 さて、筆者は43期司法修習であるが、43にはなにか意味つけは可能であろうか。
素数であることくらいしか数学的にはなさそうである。博士にこの数字をいってもあま
り感心してもらえそうにはない。
 このほかには、ミニカーの世界企画で43分の1が標準的というものである。
 トミカなどのメーカーが知られているが、春休みには各地でおもちゃ博覧会をやって
いた。筆者も家族サービスでいってスバル360のミニカーをもらってきた。
 男の子はだいたい乗り物がすきなので、ミニカーなどのおもちゃや乗り物関係の絵本
がある家庭もおおいことだろう。
 以前は女の子向けの「ノンタン」事件をとりあげたので、今回は男の子向け(?)と
いうことで「はらたくじどうしゃ」事件をとりあげてみたい。

2 「はたらくじどうしャ」事件
 原告はアウトドアペインティングの分野で世界的に知られている画家である。原告は
、平成6年に横浜市の各商店街団体の依頼を受けて、都心部循環の市営バス車体に、絵
画を描いた(以下、「原告作品」)。原告作品は、赤・青・黄・緑の現職を用いて、人
の顔、花びら、三日月・目・星・馬車・動物・建物等さまざまな図形を太い刷毛を使用
した独特のタッチにより躍動感をもって関内や馬車道あたりをイメージして描かれたも
のである。
 被告は、原告作品が車体にあがかれたバス(以下、「本件バス」)の写真が掲載され
た書籍「はたらくじどうしゃ」(以下、「被告書籍」)を出版・発売した。被告書籍は
、写真やイラストをもちいて町を走る各種の自動車を幼児向けにわかりやすく解説した
ものであり、被告書籍の表紙の表題の下には、本件バスの写真が掲載され、本文13・
14頁には本件バスの紹介がなされている。原告作品が車体に描かれた本件バスの写真
は縦約3センチ、横約7センチの大きさで掲載されている。被告書籍中に原告作品の著
作者名の表示はされていない。
 原告は被告に対して、原告咲く品を複製して出版した被告の行為が、原告が有する著
作権及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害すると主張して、損害賠償300万円を請
求した。
 主要な争点は、
① 市営バス車体に原作作品を描いたことが、著作権法46条柱書によって著作物の自
由利用が認められている「美術の著作物の原作品を屋外の場所に恒常的に設置した場合
」にあたるかどうか
② 幼児向けに町を走る各種自動車を解説する目的でつくられた書籍の表紙などに、原
告作品が描かれたバスの写真を掲載して販売することが、自由利用の例外として定めら
れている46条4号の「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はそ
の複製物を販売する行為」に該当するか
というものである。
 
 東京地裁は平成13年7月25日判決(判例時報1758号137頁 判例タイムズ
1067号297頁)で原告の請求を棄却した。

 ①の争点については「恒常」とは、角川国語大辞典では「一定で変わらないこと」と
あり、街中を走り回るバスの車体というのは場所的には一定でないともいえそうである
。しかし、東京地裁はこのような形式的解釈をとらなかった。
 「[46条柱書]の趣旨は、美術の著作物の原作品が、不特定多数の者が自由に見る
ことができるような屋外の場所に恒常的に設置された場合、仮に、当該著作物の利用に
対して著作権に基づく権利主張を何らの制限なく認めることになると、一般人の行動の
自由を過度に抑制することになって好ましくないこと、このような場合には、一般人に
よる自由利用を許すのが社会的慣行に合致していること、さらに、多くは著作者の意思
にも沿うと解して差し支えないこと、等の点を総合考慮して、屋外の場所に甲小敵に設
置された美術の著作物については、一般人による利用を原則的に自由としたものである
。前記の趣旨に照らすならば、同条所定の「一般公衆に開放されている屋外の場所」又
は「一般公衆の見やすい屋外の場所」とは不特定多数の者が見ようとすれば自由に見る
ことができる広く開放された場所を指すと解するのが相当である。原作作品が車体に描
かれた本件バスは、市営バスとして、一般公衆に開放されている屋外の場所である公道
を運行するのであるから、原告作品もまた、「一般公衆に開放されている屋外の場所」
又は「一般公衆の見やすい屋外の場所」にあたるというべきである。
 前記の趣旨に照らすならば、同条所定の「恒常的に設置する」とは、社会通念上、あ
る程度長期にわたり継続して、不特定多数の者の観覧に供する状態に置くことを指すと
解するのが相当である。原作作品が車体に描かれた本件バスは、特走イベントのために
、ごく短期間に運行されるのではなく、他の一般の市営バスと全く同様に、継続的に運
行されているのであるから、原告が、公道を定期的に運行することが予定された市営バ
スの車体に原作作品を描いたことは、正に美術の著作物を「恒常的に設置した」という
べきである。
 この点、原告は、本件バスが、夜間、車庫内に駐車されるため、恒常的とはいえない
旨主張する。しかし、広く、美術の著作物一般について、保安上等の理由から、夜間、
一般人の入場や観覧を禁止することは通常あり得るのであって、このような観覧に対す
る制限を設けたからといって、恒常性の要請に反するとして同規定の適用を排斥する合
理性はない。」
「また、原告は「設置する」とは、美術の著作物が、土地や建物等の不動産に固着され
、また、一定の場所に固定されていなければならないと解すべきところ、本件バスは移
動するので、本件バスに絵画を描くことは設置に当たらないと主張する。確かに、同規
定が適用されるものとしては、公園や公道におかれた銅像等が典型的な例といえる。し
かし、不特定多数の者が自由に利用できるとするのが、一般人の公道の自由のかんてん
がら好ましいなどの同規定の前記趣旨に照らすならば、「設置」の意義について、不動
産に固定されたもの、あるいは一定の場所に固定された物のような典型的な例に限定し
て解する合理性はないというべきである」

 ②については事実認定の問題なんで省略する。

3 「はたらくじどうしゃ」事件の射程距離
 岡山の地元ネタだと、瀬戸大橋線の岡山駅・高松駅のマリンライナーにアンパンマン
のキャラクターがずらずらと描かれたアンパンマン列車がはしったことがある。このほ
か絵画が描かれたと飛行機や電車列車バスは枚挙にいとまがなかろう。これを鉄道マニ
アなどが車体等の種類の写真としてインターネットで公開するのは、46条柱書で著作
権侵害にならないとできるのだろうか。

 46条の趣旨を背景の映り込みの場合には著作権侵害にならない、と狭く限定的にと
らえるならば、このような場合はメインで撮影しているわけであるから、問題あり、と
いうことになろう。東京地裁判決は映り込みの場合のみに限定はしていないので、この
場合も46条柱書の適用ありとできそうである。
 
 46条の適用大正としては「公衆が容易にアクセス可能かどうか、そのような状態に
おかれることを著作権者が了承していたかどうか」が重要ということになろう(村井麻
衣子「アクセス可能な著作物に対する公衆の利用の自由 -はたらくじどうしゃ事件-
」 知的財産法政策学研究10号 2006年2月 254頁)。

 46条は美術の著作物・建築の著作物の原作品の限定列挙と解されているようである
。さきの鉄道写真の場合等の車体等に直接描かれた場合は問題ない。句碑や歌碑など言
語の著作物が映り込んでしまった場合やキャラクターヂクッズ等美術の著作物の複製物
の場合はどうであろうか。
 しかし、美術の複製物については類推を認めて、このような鉄道写真のインターネッ
ト公開については許容されるとしてもよいのではなかろうか。
 あるいは著作権法32条の引用について弾力的な運用で対処することになろう。
 
 アメリカ法が適用される場合はフェア・ユースの規定は美術品の現作品と複製物とを
区別していないようである。

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