偽造・盗難キャッシュカードと預金者保護法
偽造・盗難キャッシュカードと預金者保護法
弁護士 岡本 哲
預金者保護の新しい法律ができたのか
(支店長) わたしは金融機関の支店長です。さいわいキャッシュカード関連のトラブルはいままで発生しておりませんが、今年になって偽造キャッシュカードや盗難キャッシュカードの被害者に手厚い保護を与える、ということは、金融機関については厳しい態度でのぞむ、法律ができたとききました。どういう法律でどのような内容なのでしょうか。
預金者保護法の内容
(弁護士)「偽造カード及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預金者保護等に関する法律」略して預金者保護法は、平成17年8月に成立し、平成18年2月から施行されています。
キャッシュカードが発行されている形態での預金だと、カードという有体物と暗証番号という秘密情報の二重のセキュリティで守られているタテマエです。しかし,キャッシュディスペンサーやATMだと実際は磁気ストランプ部分のデータさえ同一であれば真正なカードとみなしてしまうため、物理的存在としてのカードにはあまり意味がなく実際にはセキュリティが暗証番号のみに一元化しています。また、暗証番号が4桁固定であり、通常のひとにとって忘れるリスクの少ない4桁番号というのは生年月日・電話番号・車の番号等他人の推測可能なものになりがちという人間行動上の脆弱性があります。
そこで、偽造カードによる場合には民法478条の適用を否定して弁済を無効とし(預金者保護法3条・4条)、盗難カードによる場合には、預金者に過失がなければ預金者に払戻し額の損失補填請求権を、軽過失があっても払い戻し額の4分の3の損害補填請求権を預金者に与えています(5条)。偽造カードはともかく、盗難カードについては従来の判例や銀行実務に大幅な変更を迫るものになっています。
従来の判例や実務との相違
債権の準占有者、社会観念上あたかも債権者のような外観を呈する者に対してなした弁済については、平成16年改正前の民法では「弁済者ノ善意ナリシトキニ限リ」有効とし、平成16年改正後は「弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り有効になる」と規定されています(民法478条)。
平成16年改正は、通説・判例が善意だけでは足りず善意無過失を要求していたことを明文化したにすぎず、その前後で扱いがかわるわけではありません。
いったん民法478条で金融機関が保護されると、最終的な負担は預金者にいくことになっていました。
ところが、2006年の預金者保護法により、最終的に預金者に責任を負わせるためには預金者の重過失または悪意が必要となったわけです。
預金者保護法の適用範囲
(支店長)預金者保護法は「機械式預貯金払い戻し」等に適用があるようですが、キャッシュカードによる払い戻し以外にはどのようなことについて預金者保護法の適用があるのでしょうか。
(弁護士) 払い戻し以外に機械式金銭借入(2条7号)や預金通帳による機械式の払い戻しの場合にも適用があり増す(2条3項)。
預金通帳と印鑑による場合は預金者保護法の対象とはなりません。カード取引の場合は機械が画一的に対応するだけであるから、預金者保護法の対象であるが、窓口による払い戻しの場合は、,金融機関の過失等の判断が画一的におこなえない、というのがその理由とされています。
被害のなりすましへの対応
(支店長)預金者保護法が預金者の保護にずいぶん手厚いことはわかりました。しかし、それでは、盗難被害にあっていないのにあったとしょうする被害の成り済まし詐欺が横行するのではないでしょうか。金融機関側としてはどのように対処すればいいのでしょうか。
(弁護士)消費者側預金者側として予想されることをいわせてもらえば、そもそも預金者保護法など制定しなくても金融機関のほうで利用限度額の引き下げをしたり、暗証番号の桁数をふやしたりアルファベットやかな漢字で暗証とできるようにしたり、生体認証を採用したりすることで、偽造・盗難カードによる預金者被害はかなり防ぐことができたはずです。また、預金者保護のための保険を充実させておけばここまでの社会問題化はしなかったと思われます。預金者は金融機関に求めているのは本人確認をあいまいにしても多額の預貯金を迅速に払い戻させるサービスではなく、安全に預金を管理してもらえるというサービスです。それなりのサービス提供をしていれば預金者の納得もえられますし、なりすまし詐欺の防止も可能です。金融機関の真摯な努力があれば、例えば暗証番号管理についても裁判所が預金者の重過失も認めてくれやすくなりましょう。
なりすまし詐欺についても金融機関側勝訴の判例も複数あり、それについては暗証番号の入力態様や払い戻しかたの不自然さなどから狂言がばれています。預金者からおかしな要求があった場合は、弁護士に相談してみてください。
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